「新リース会計基準」の適用が迫り、自社にどのような影響があるのか、何を準備すればよいのか不安に感じていませんか?この会計基準の変更は、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として計上するため、特に中小企業の財務諸表や経営指標に大きなインパクトを与えます。本記事では、新リース会計基準の基本から、自己資本比率やROAといった経営指標への具体的な影響、煩雑化する経理実務までを網羅的に解説。さらに、今すぐ取り組むべき対策を具体的な3ステップで示し、仕訳例やよくある質問を通じて、あなたの疑問を解消します。この記事を読めば、新基準へのスムーズな移行に必要な知識と具体的なアクションプランがすべてわかります。
新リース会計基準とは?基本をわかりやすく解説
新リース会計基準とは、これまで企業の会計処理において区分されていた「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区別を原則としてなくし、すべてのリース契約を資産と負債として貸借対照表(B/S)に計上することを求める新しい会計ルールです。これは「使用権モデル」と呼ばれ、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」に合わせる形で導入が進められています。
従来、コピー機や社用車などで一般的なオペレーティング・リースは、月々のリース料を費用として計上するだけで、貸借対照表には記載されませんでした(オフバランス処理)。しかし新基準では、借り手がリース資産を使用する「権利」を「使用権資産」として、将来のリース料支払い義務を「リース負債」として、それぞれ計上(オンバランス処理)する必要があります。この変更は、企業の財務状況をより正確に外部へ開示することを目的としています。
いつから適用?対象となる企業とスケジュール
現在、企業会計基準委員会(ASBJ)から公開草案「リースに関する会計基準(案)」が公表されており、最終決定に向けた議論が進められています。現時点での適用スケジュール(案)は以下の通りです。
| 対象企業 | 適用開始時期(予定) |
|---|---|
| 上場企業、会社法上の大会社 | 2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から |
| 上記以外の企業(中小企業など) | 早期適用も可能だが、具体的な強制適用時期は未定 |
中小企業については、現行基準の継続適用が認められる可能性も議論されていますが、取引先や金融機関との関係上、新基準への対応が求められるケースも想定されます。そのため、自社がいつから対応すべきか、今のうちから情報収集と準備を進めておくことが重要です。
これまでのリース会計基準との違いを比較
新リース会計基準と現行基準の最も大きな違いは、借り手側の会計処理です。特にオペレーティング・リースの扱いが根本的に変わります。その違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | これまでの会計基準 | 新リース会計基準(案) |
|---|---|---|
| リースの分類 | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類 | 原則としてすべてのリースを単一のモデルで会計処理(分類の廃止) |
| 貸借対照表(B/S)への計上 |
| 原則すべてのリースで「使用権資産」と「リース負債」を計上(オンバランス) |
| 損益計算書(P/L)への計上 |
| 原則すべてのリースで「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る利息費用」を計上 |
このように、新基準ではこれまで費用処理するだけで済んでいたオペレーティング・リースも資産と負債として計上する必要があるため、企業の財務諸表に与える影響は非常に大きくなります。
なぜ会計基準が変更されたのか 背景を解説
今回のリース会計基準の変更には、主に2つの背景があります。
一つ目は、国際的な会計基準との整合性(コンバージェンス)です。海外では既にIFRS(国際財務報告基準)や米国会計基準で同様のルールが導入されています。グローバルに事業を展開する企業や海外投資家にとって、各国の会計基準が異なると財務諸表の比較が困難になります。日本の会計基準を国際標準に合わせることで、国内外での企業比較を容易にし、日本企業への投資を促進する狙いがあります。
二つ目は、財務の透明性を高め、投資家への情報提供を充実させることです。従来のオペレーティング・リースは、多額の支払い義務があるにもかかわらず貸借対照表に表示されない「オフバランス取引」でした。これにより、企業が抱える実質的な負債が見えにくく、投資家が正確な財務リスクを判断できないという問題がありました。すべてのリースを資産・負債として計上することで、企業の財政状態をより忠実に財務諸表へ反映させ、投資判断に有用な情報を提供することが目的とされています。
新リース会計基準が中小企業に与える3つの影響
2026年度から中小企業にも適用が検討されている新リース会計基準は、単なる会計ルールの変更にとどまりません。企業の財務状況の「見え方」を大きく変え、経営判断や資金調達にも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、中小企業が特に注意すべき3つの影響について、具体的に解説します。
財務諸表への影響 資産と負債の増加
新リース会計基準の最も大きな変更点は、これまで費用処理(オフバランス)が可能だったオペレーティング・リース契約の多くが、資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)されることです。
具体的には、リースしている資産(コピー機、PC、社用車、店舗など)を利用する権利を「使用権資産」として資産の部に、将来支払うリース料総額の現在価値を「リース負債」として負債の部にそれぞれ計上します。これにより、これまでB/Sに現れていなかったリース契約が可視化され、総資産と総負債が同時に増加します。
| これまでの会計基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| 資産の部 | (計上なし) | 使用権資産を計上 → 総資産が増加 |
| 負債の部 | (計上なし) | リース負債を計上 → 総負債が増加 |
また、損益計算書(P/L)においても、従来は「支払リース料」として費用計上していたものが、「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」に分けて計上されることになります。支払リース料という名目はなくなり、費用の内訳が変化する点も重要なポイントです。
経営指標への影響 自己資本比率やROAはどう変わるか
貸借対照表の資産と負債が両建てで増加することにより、それを基に算出される各種経営指標も変動します。これは、金融機関からの融資審査や、取引先の与信判断に影響を与える可能性があるため、自社の指標がどう変わるのかを事前に把握しておくことが極めて重要です。
主な経営指標への影響は以下の通りです。
| 経営指標 | 計算式 | 影響 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 | 低下する傾向 | 分母である総資産が増加するため。 |
| ROA (総資産利益率) | 当期純利益 ÷ 総資産 | 低下する傾向 | 分母である総資産が増加するため。 |
| 負債比率 | 負債合計 ÷ 自己資本 | 上昇する傾向 | 分子である負債合計が増加するため。 |
| EBITDA | 営業利益 + 減価償却費 | 増加する傾向 | 支払リース料が減価償却費と支払利息に分解され、減価償却費が増加するため。 |
特に、自己資本比率の低下や負債比率の上昇は、財務の健全性が悪化したかのような印象を与えかねません。金融機関などには、会計基準の変更による影響であることを事前に説明し、理解を求めておく必要があるでしょう。
経理実務への影響 契約管理の煩雑化
新リース会計基準の適用は、経理部門の実務に大きな負担を強いることになります。これまでのように、毎月リース会社からの請求書通りに費用計上するだけでは済まなくなります。
具体的には、以下のような新たな業務が発生します。
- 全リース契約の網羅的な把握:本社だけでなく、各支店や営業所が個別に契約しているリース物件もすべて洗い出す必要があります。
- 契約内容の詳細な確認:リース期間、リース料、金利、契約更新や購入の選択権(オプション)の有無など、会計処理に必要な情報を契約書から読み解く必要があります。
- 複雑な計算業務:リース負債の算出に必要な割引計算(現在価値計算)や、使用権資産の減価償却計算、支払利息の計算など、専門的な知識が求められます。
- 期中の管理業務:契約内容に変更があった場合(中途解約や期間延長など)には、リース負債や使用権資産の再測定が必要となり、その都度、会計処理を見直さなければなりません。
これらの業務をExcelなど手作業で管理するには限界があり、多くのリース契約を抱える企業では、経理担当者の業務負担が大幅に増加することが予想されます。そのため、会計システムの見直しや、リース契約管理に特化したITツールの導入を検討する必要が出てくるでしょう。
中小企業が今すぐやるべき対策 3ステップで解説
新リース会計基準の適用は、まだ先のことだと感じられるかもしれませんが、準備には相応の時間がかかります。特に、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースも原則として資産計上が必要になるため、影響は広範囲に及びます。ここでは、中小企業が今すぐ着手すべき対策を3つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1 リース契約の洗い出しと内容の把握
最初に行うべきことは、自社が締結しているすべてのリース契約を正確に把握することです。これまで費用として処理していた契約書も対象となるため、社内に散在している契約書をすべて集め、その内容を整理・可視化する必要があります。
具体的には、コピー機やパソコン、社用車、ソフトウェア、不動産(事務所や店舗の賃貸借契約)など、「リース」や「レンタル」、「賃貸借」といった名称に関わらず、実質的に資産を借り受けている契約を網羅的にリストアップします。契約書を精査し、以下の項目を表計算ソフトなどで一覧にまとめることから始めましょう。
| 分類 | 確認項目 | 主な確認内容 |
|---|---|---|
| 基本情報 | リース物件 | 物件の種類、型番、数量など |
| リース会社(貸手) | 契約の相手先 | |
| 契約期間 | 契約開始日・終了日 | リース期間の算定に必要 |
| 解約不能期間 | 実質的なリース期間を特定する要素 | |
| 更新・再リース条項 | 延長の可能性を評価するために必要 | |
| 金額情報 | リース料 | 月額リース料、リース料総額、支払スケジュール |
| 維持管理費用など | リース料に含まれるサービス部分を分離するため | |
| 契約条件 | 所有権移転条項 | ファイナンス・リースかどうかの判断材料 |
| 割安購入選択権 | 同上 |
この洗い出し作業は、新基準適用の影響範囲を特定する上で最も重要な基礎となります。漏れなく正確に情報を集めることが、後のステップを円滑に進めるための鍵となります。
ステップ2 会計処理方針の決定とシミュレーション
次に、洗い出したリース契約情報をもとに、自社の会計処理方針を決定し、財務諸表に与える影響を事前に試算(シミュレーション)します。
まず決定すべきは、新リース会計基準の「簡便的な取扱い」を適用するかどうかです。新基準では、すべてのリースを資産・負債として計上するのが原則ですが、実務上の負担を考慮し、以下のリースについては例外的に従来の費用処理が認められています。
- 短期リース:リース期間が12ヶ月以内のリース
- 少額リース:リース資産の価値が重要でないリース(例えば、リース資産単体の新品価額が300万円未満など、企業が重要性基準を設定可能)
これらの簡便的な取扱いをどの範囲で適用するか、自社の状況に合わせて方針を固めます。方針が固まったら、原則処理となるリース契約について、使用権資産とリース負債の金額を具体的に計算します。この計算結果を用いて、新基準適用後の貸借対照表や損益計算書がどのように変化するかをシミュレーションします。
特に、以下の経営指標への影響は注意深く分析する必要があります。
- 自己資本比率:総資産と負債が同時に増加するため、一般的に低下します。
- 負債比率:負債が増加するため、上昇します。
- ROA(総資産利益率):総資産が増加するため、低下する傾向にあります。
- EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益):支払リース料が減価償却費と支払利息に分かれるため、一般的に増加します。
金融機関から融資を受けている場合、融資契約に含まれる財務制限条項(コベナンツ)に抵触する可能性がないか、必ず確認してください。シミュレーションの結果、抵触の恐れがある場合は、事前に金融機関へ説明し、相談しておくことが不可欠です。
ステップ3 業務フローとシステムの準備
最後のステップは、新基準に沿った会計処理を継続的に行うための社内体制を構築することです。具体的には、業務フローの見直しと、必要に応じたシステムの導入・改修が中心となります。
業務フローの見直し
新基準では、個々のリース契約情報を正確に管理し続ける必要があります。そのため、以下のような業務フローを新たに構築・整備することが求められます。
- 契約管理台帳の整備:ステップ1で作成したリース契約一覧を、常に最新の状態に維持・管理する体制を整えます。
- 担当部署の明確化:リース契約の締結から会計処理、満了までのプロセスをどの部署が担当するのか、役割分担を明確にします。
- 新規契約時のルール策定:新たにリース契約を締結する際に、会計処理に必要な情報を経理部門へ確実に連携するルールを設けます。
- 変更管理プロセスの確立:契約内容の変更や中途解約が発生した場合の報告・処理フローを定めます。
システムの準備
リース契約の件数が多い場合、Excelなどでの手作業管理には限界があります。ヒューマンエラーを防ぎ、効率的に業務を進めるためには、会計システムの活用が効果的です。
まずは、現在利用している会計システムが新リース会計基準に対応しているかを確認しましょう。対応していない場合は、システムのバージョンアップや、リース管理に特化した専用ツールの導入を検討する必要があります。システムを選定する際は、以下の機能が備わっているかを確認するとよいでしょう。
- リース契約情報の一元管理機能
- 使用権資産とリース負債の自動計算機能
- 減価償却費と支払利息の計算および仕訳作成機能
- 既存の会計システムとの連携機能
システムの導入や業務フローの変更には時間がかかるため、早期に検討を開始し、適用開始までに余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが重要です。必要であれば、顧問税理士や会計士、ITベンダーなどの専門家の支援を得ることも有効な手段です。
【仕訳例】新リース会計基準の具体的な会計処理
新リース会計基準を理解する上で、具体的な仕訳例は欠かせません。これまでの会計処理とは大きく異なるため、経理担当者は必ず押さえておく必要があります。ここでは、リース契約の開始時と決算時に分けて、具体的な数値を用いた仕訳例をわかりやすく解説します。
新基準では、原則としてすべてのリース契約が資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)されることになります。この点を念頭に置いて、以下の例を確認していきましょう。
リース開始時の仕訳 使用権資産とリース負債の計上
リース契約を開始した際には、将来支払うリース料総額の現在価値を計算し、同額を「使用権資産」と「リース負債」として計上します。これが新リース会計基準の最も大きな特徴です。
【設例】
- リース物件:業務用コピー機
- リース期間:5年
- 年間リース料:1,000,000円(毎年期末払い)
- 割引率(追加借入利子率):3%
まず、リース負債の額を計算します。これは、将来のリース料総額を割引率を使って現在価値に割り引いた金額です。上記の設例では、リース負債と使用権資産の計上額は「4,579,710円」となります。
リース開始時には、この金額を使って以下の仕訳を行います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 4,579,710円 | リース負債 | 4,579,710円 |
この仕訳により、貸借対照表の資産の部に「使用権資産」が、負債の部に「リース負債」がそれぞれ計上され、企業の総資産が増加することになります。
決算時の仕訳 減価償却と利息の計上
決算時には、2つの会計処理が必要です。「使用権資産の減価償却」と「リース負債に係る支払利息の計上」です。それぞれ個別に仕訳を行う必要があります。
使用権資産の減価償却
計上した使用権資産は、リース期間にわたって減価償却を行います。通常、定額法で計算します。
【計算例】
使用権資産 4,579,710円 ÷ リース期間 5年 = 915,942円(年間の減価償却費)
決算時には、この減価償却費を費用として計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 915,942円 | 使用権資産減価償却累計額 | 915,942円 |
この処理は、通常の固定資産の減価償却と似ていますが、対象が「使用権資産」である点が異なります。
リース料支払時の会計処理(利息と負債の返済)
リース料を支払った際の処理も、これまでとは異なります。支払ったリース料は、「支払利息」と「リース負債の返済」の2つの要素に分解して処理します。
【1年目の計算例】
- 支払利息:期首リース負債残高 4,579,710円 × 割引率 3% = 137,391円
- リース負債の返済額:年間リース料 1,000,000円 – 支払利息 137,391円 = 862,609円
この計算に基づき、リース料支払時に以下の仕訳を行います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 137,391円 | 現金預金 | 1,000,000円 |
| リース負債 | 862,609円 |
このように、決算整理仕訳がこれまでのリース会計処理よりも複雑になります。特に、リース負債の残高を毎年管理し、利息計算を正確に行う必要があるため、経理実務の負担が増加する点に注意が必要です。
新リース会計基準に関するよくある質問
新リース会計基準の適用にあたり、特に中小企業の経理担当者様から多く寄せられる質問にお答えします。実務上の判断に迷うポイントを事前に解消し、スムーズな移行準備を進めましょう。
短期リースや少額リースの扱いはどうなるか
新リース会計基準では、すべてのリース契約を資産・負債として計上するのが原則ですが、実務上の負担を考慮し、例外的な取扱い(簡便的な取扱い)が認められています。それが「短期リース」と「少額リース」です。
重要性の低いこれらのリースについては、従来通り賃貸借処理(支払リース料を費用計上する)を継続することが可能です。これにより、事務処理の煩雑化を一定程度避けることができます。
短期リースとは
リース期間が12ヶ月以内のリースを指します。例えば、イベント用に数ヶ月だけ借りるオフィス機器や、繁忙期に一時的に利用する倉庫などが該当します。ただし、購入オプションが付いているなど、実質的に12ヶ月を超えて使用することが明らかな場合は対象外となるため注意が必要です。
少額リースとは
リースする資産そのものの価値が少額であるリースを指します。新リース会計基準では明確な金額基準は示されていませんが、国際的な会計基準(IFRS第16号)では新品時の価額が5,000米ドル以下という目安が示されています。各企業の実態に応じて、自社で重要性の乏しい金額基準を設定し、それに基づき判断することになります。コピー機やPC、オフィス家具などが対象となるケースが多いでしょう。
| リースの種類 | 会計処理 | 具体例 |
|---|---|---|
| 原則的なリース | 使用権資産とリース負債を計上(オンバランス) | 社用車、工作機械、長期契約の複合機など |
| 短期リース | 支払リース料を費用として計上(オフバランス) | 展示会用に3ヶ月間レンタルするPC |
| 少額リース | 支払リース料を費用として計上(オフバランス) | 少額のオフィス家具、タブレット端末など |
税務上の取扱いに変更はあるか
会計基準が変更されても、現時点では、法人税法上のリース取引の取扱いに直接的な変更はありません。会計と税務はそれぞれ異なるルールに基づいており、今回の変更はあくまで会計上のルール変更です。
税務上は、引き続き以下の区分に基づいて処理されます。
- 所有権移転ファイナンス・リース取引:売買があったものとして扱われ、減価償却を行います。
- 所有権移転外ファイナンス・リース取引:リース期間定額法により損金算入します。
- オペレーティング・リース取引:賃貸借取引として扱われ、支払リース料を損金算入します。
この結果、新リース会計基準の適用後は、これまでオペレーティング・リースとして処理していた契約について、会計と税務の処理に「ズレ(一時差異)」が生じることになります。例えば、会計上は「減価償却費」と「支払利息」を費用計上するのに対し、税務上は「支払リース料」を損金算入するため、各年度の費用(損金)額が一致しなくなります。
この差異を調整するために、「税効果会計」の適用が必要となる場合があります。中小企業にとっては新たな実務負担となる可能性があるため、顧問税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
既存のリース契約はどうすればよいか
新リース会計基準の適用開始日より前に契約したリース取引については、実務上の負担を軽減するための経過措置が設けられています。
原則として、適用開始日より前に締結されたオペレーティング・リース取引については、新リース会計基準を適用せず、引き続き従来の会計処理(賃貸借処理)を継続することが認められています。つまり、過去に遡ってすべてのリース契約を洗い出し、資産計上し直すといった煩雑な作業は必須ではありません。
ただし、この経過措置は強制ではなく、任意で新基準を適用することも可能です。自社の財務状況や管理体制などを総合的に勘案し、会計方針を決定する必要があります。
| 契約締結日 | 原則的な会計処理 | 備考 |
|---|---|---|
| 新基準の適用開始日「前」 | 従来の会計処理(賃貸借処理)を継続可能 | 経過措置の適用による。任意で新基準の適用も可。 |
| 新基準の適用開始日「後」 | 新リース会計基準を適用(資産・負債計上) | 短期・少額リースに該当する場合は簡便法を選択可能。 |
この経過措置があるため、多くの中小企業では、当面は新規契約分から新基準に対応していくことになります。しかし、いずれはすべてのリース契約が新基準の対象となるため、長期的な視点で準備を進めていくことが重要です。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から中小企業に与える影響、そして今すぐやるべき対策までを網羅的に解説しました。新基準の最も重要な変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産と負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)することです。
この変更は、企業の財務実態をより正確に反映させることを目的としていますが、中小企業にとっては資産・負債の増加による自己資本比率の低下など、経営指標への影響は避けられません。また、個々のリース契約の管理や複雑な会計処理が求められるため、経理実務の負担も増大します。
こうした影響に備えるため、企業が今すぐ取り組むべきは「リース契約の洗い出し」「会計処理方針の決定とシミュレーション」「業務フローとシステムの準備」という3つのステップです。特に、自社がどのようなリース契約をどれだけ結んでいるのかを正確に把握することが、すべての対策の第一歩となります。
新リース会計基準への対応は、単なる会計ルールの変更ではなく、自社の財務状況を正しく把握し、適切な経営判断を下すための重要なプロセスです。適用開始が迫る中で混乱しないよう、本記事を参考に、早期に顧問税理士や会計士などの専門家へ相談し、計画的な準備を進めていきましょう。